ボリコナゾール〜TDM・薬物相互作用〜

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ボリコナゾールTDMPharmacy

こんにちは、Kです。

今日はボリコナゾール(商品名:ブイフェンド)についてお話ししていきます。私の施設では肝移植後の患者さんや血液内科領域の移植後の患者さんに投与されている例が多く、ほぼ全例TDMを実施しています。

TDMのあれこれ

なぜボリコナゾールでTDMを実施するのか?

ボリコナゾールは主にCYP2C9で代謝されます。CYP2C9では遺伝子多型が報告されており、日本人では活性の低いPM(poor metabolized)が多いのは有名な話ですね。PMではボリコナゾールの代謝物が滞り、血漿中濃度が高くなる可能性があります。

また、抗菌薬TDMガイドラインでは以下のように記載されています。

TDMの適応
a.治療開始後,臨床効果が乏しい場合や肝機能障害が認められた場合は TDM 実施を推奨する(B-II)
b.視覚障害は血中濃度上昇と関連性が報告されている。一過性の場合が多いが,視覚障害発生時には TDM を考慮する(C1-III)
c.安全性の面から治療前より肝機能障害を有する症例では TDM を考慮する(C1-III)
d.外来治療においても長期使用例では TDM 実施が望ましい(C1-III)
e.侵襲性肺アスペルギルス症など重症真菌感染症治療を行う場合は TDM を考慮する(C1-III)
f.ボリコナゾール(VRCZ)の代謝酵素である Cytochrome P450(CYP)の分子種の活性に,個体差,人種差がある。CYP により代謝される薬剤と併用する場合には,併用薬剤の血中濃度の変化が問題となる場合と,VRCZ 自
身の血中濃度が変化する場合があり,後者においては VRCZ の TDM による評価を行う(B-II)
g.深在性真菌症の予防として VRCZ 投与を受けた移植レシピエントでは TDM を実施する(C1-III)
h.小児では一般に年齢によるクリアランスの差が大きく,TDM による評価が必要である(C1-III)

いつTDMを行うか?

抗菌薬TDMガイドラインでは、「5~7日目に定常状態に達するため、採血はその時点で行う。最近ではより早期に定常状態に達するとの報告も多い」と記載されています。
一方で、ECIL-6ガイドラインには「初回のトラフ値測定は2-5日に実施すること」と記載されています。日本より早めに設定されていますね。
この点について、次の抗菌薬TDMガイドラインで変更がされるかもしれませんので要チェックですね。
また、静脈内投与から経口投与に変更する場合はどうでしょうか?ブイフェンド注のインタビューフォームより「日本人及び外国人における健康成人男性のボリコナゾールの生物学的利用率は 96%と推定された。国内第Ⅲ相試験における患者の生物学的利用率は、ほぼ 100%であった」と記載あります。
したがって基本的には経口へ切替時は静脈投与時と同量で良いとされていますが、経口へ変更することで濃度低下の報告もあるようで、ECIL-6ガイドラインでは経口投与へのスイッチ時もTDMを推奨としています。

目標血中濃度

抗菌薬TDMガイドラインには以下のように定められています。
有効性:トラフ値≧1~2 μg/mL
安全性:トラフ値≦4~5 μg/mL(肝障害に注意)
予想外の異常値や、投与量を変更した場合、ボリコナゾールは非線形の薬物動態を示すため、特に血中濃度の確認が必要となります。


免疫抑制薬TDM標準化ガイドライン 2018 [臓器移植編]

相互作用

ボリコナゾールはCYP2C19、2C9、3A4の強い阻害作用を有しています。
ボリコナゾールと併用禁忌薬
リファンピシン,リファブチン,エファビレンツ,リトナビル,カルバマゼピン,バルビタール・フェノバルビタール,ピモジド,キニジン,エルゴタミン含有製剤,トリアゾラム
冒頭で移植後の患者さんに投与されているとお話しました。移植後ということは免疫抑制剤を服用していますよね。では、免疫抑制剤服用下でボリコナゾールを開始もしくは用量変更する際はどうすれば良いのでしょうか?
添付文書には、ボリコナゾールとの併用で「シクロスポリンのCmaxは1.1倍、AUCは1.7倍増加、タクロリムスのCmaxは2.2倍、AUCは3.2倍増加した」と記載されています。
抗菌薬TDMガイドラインには下記記載があります。
カルシニューリン阻害薬との併用時には,カルシニューリン阻害薬の血中濃度が2~3 倍上昇することを考慮する
(B-II)。
また、米国におけるボリコナゾールの添付文書ではすでにシクロスポリンを投与中の患者へボリコナゾールの治療を開始する場合、シクロスポリンは本来の投与量の2分の1に減量し、シクロスポリンの血中濃度を頻回にモニタリングすることが勧められると、タクロリムスについては、投与量を3分の1に減量し、タクロリムスの血中濃度を頻回にモニタリングすることが勧められると記載されています。

経験談

私は肝移植後の患者さんで拒絶が疑われ夜に緊急入院、ボリコナゾール(内服)が1回200 mg 1日2回から1回 400mg1日2回に増量、タクロリムスも2倍に増量されており、翌日の新規入院患者のカルテチェックの際に気付いた経験があります。
幸いにしてタクロリムスは連日の採血オーダがされており、医師へタクロリムスの濃度上昇の恐れがあり十分注意してフォローするよう情報提供しました。結果、入院翌日のタクロリムスの濃度は前日の3倍上昇していましたが、もともとの濃度が低かったので腎障害などの副作用は出現なく、連日のフォローアップで血中濃度は至適範囲内で推移しました。
実際に血中濃度上昇を目の当たりにしたので、印象に残った経験です。
皆さんにも参考にしていただければ幸いです!

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