【処方監査が難しい②】メーゼント®錠とは

以前、処方監査に注意する薬剤としてテモゾロミドについてお話ししました。

【処方監査が難しい】テモゾロミドについて知ろう
テモゾロミドは治療段階によって投与量、投与方法が異なるため処方監査時に注意が必要な薬剤です。また、副作用やその支持療法など、服薬指導時に役立つ内容も併せて紹介していきます。

今回はさらに複雑な薬剤として、多発性硬化症治療薬のメーゼント®錠について勉強していきましょう。こちらのお薬は2020年9月に発売されたばかりです。本記事は多発性硬化症・視神経脊髄炎診療ガイドライン2017、メーゼント®錠のインタビューフォームや適正使用ガイドを参考にしています。

多発性硬化症とは

多発性硬化症は中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多発する脱髄疾患で、好発年齢は20~30代の若い年代と言われています。詳しい病因は不明ですが、中枢神経系の髄鞘を構成するオリゴデンドログリアに対する自己免疫反応が重要と考えられています。

病変は中枢神経系である脳・脊髄・視神経のどこにでも起こりえるため、病変の部位に応じて様々な症状が出現しうります。典型的には、再発と寛解を繰り返しながら憎悪していきます。

  • 急激な視力低下
  • 複視
  • 筋力低下
  • しびれ感、疼痛など
  • 排尿障害
  • 多幸感,抑うつなど

急性憎悪期はステロイドパルス療法や血液浄化療法、再発防止にはインターフェロンβやグラチラマー酢酸塩(コパキソン®注)、ナタリズマブ(タイサブリ®注)、フィンゴリモド(ジレニア®カプセル)での治療が行われます。

多発性硬化症の基礎知識をおさらいしました。さて、新規登場したメーゼント®錠はどんなお薬なのでしょうか?

メーゼント®錠の基本情報

成分名:シポニモドフマル酸

新規のスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬です。S1P 受容体とは G 蛋白共役型受容体で、5 種類のサブタイプ(S1P1、S1P2、 S1P3、S1P4、S1P5受容体)が知られており、シポニモドフマル酸はS1P1及びS1P5受容体に対し優れた選択性を示すそうです。一方のジレニア®カプセルはS1P2受容体を除く4つの受容体に作用するという違いがあります。

メーゼント®錠は、リンパ球上のS1P受容体に作用して末梢血中のリンパ球数を減少させることにより、自己免疫反応に関与するリンパ球の中枢組織への浸潤を阻止します。また、S1P5 受容体を介してオリゴデンドロサイトの再ミエリン化の促進に関与することが示唆されています。S1P5 受容体に対して本剤はアゴニストとして作用し、その機能を抑制しません。

 

適応:二次性進行型多発性硬化症の再発予防及び身体的障害の進行抑制

多発性硬化症は、自然経過に基づいて再発寛解を繰り返すRRMS(再発寛解型)と、発病当初から慢性進行性の経過をたどるPPMS(一次性進行型)に大別されます(日本人ではPPMSは約5%と少ない)。RRMSの約半数は発病後15-20年の経過で、再発がなくても次第に障害が進行するようになり、SPMS(二次性進行型)となっていきます。

これまでの治療薬は、SPMS(二次性進行型)に対しては有効性を示しておらず、メーゼント®錠は高い医療ニーズから開発された薬ということです。

メーゼント®の基本的な情報を理解したところで、次に複雑な用法用量について勉強しましょう!

用法用量

添付文書に記載の用法用量は下記の通りです。

「通常、成人にはシポニモドとして1日0.25mgから開始し、2 日目に0.25mg、3日目に0.5mg、4日目に0.75mg、5日目に 1.25mg、6日目に2mgを1日1回朝に経口投与し、7日目以降 は維持用量である2mgを1日1回経口投与するが、患者の状態 により適宜減量する。」

「CYP2C9*1/*3又は*2/*3を保有する患者については、維持 用量は1日1回1mgとすることが望ましい。維持用量を1日1回 1mgとする場合は、4日目までは用法及び用量と同様に漸増 を行い、5日目以降は1mgとすること。」

遺伝子多型とな…!!!

複雑な用法用量ゆえに、メーカーよりスターターキットなるものが作られています。イメージしやすいように画像にまとめてみました。スターターキットを使えるパターンと使えないパターンがあります。

この遺伝子多型って何?て思いますよね。

海外第1相試験において*2/*3保有患者では、*1/*1保有者と比較してAUCが2倍に増加、*3/*3保有患者では*1/*1保有者と比較してAUCが4倍に増加したとのことです。

また、母集団薬物動態解析において*1/*3又は*2/*3保有者は*1/*1に比較してAUCがそれぞれ1.61倍、1.91倍に増加したとのこと。

したがって、*3/*3患者では禁忌、*1/*3又は*2/*3保有者は維持用量が通常の半分の1mgに設定されているんですね。しっかりと遺伝子多型の確認をしましょう!!

注意すべき副作用

徐脈性不整脈

臨床試験において、初回投与日にメーゼント®投与後1時間以内に脈拍数が減少し、約4時間後に最も低下し、投与6時間後までに回復傾向が認められたとのことです。また、心拍数には日内変動があり、夜間から早朝にかけて最も低くなるため、心拍数減少のタイミングが重なるのを避けて漸増期のメーゼント®の投与は朝と規定されています

初回投与時は入院にてバイタルサインおよび心電図を測定し、投与6時間以内に異常が認められた場合は継続して心電図の測定など対応されていきます。

漸増期間中は家庭での症状確認、脈拍数測定が重要です!以下の場合は主治医への連絡が必要となります。

■失神、浮動性めまい、息切れなどの症状が認められた場合
■少なくとも投与開始7日目までは家庭で脈拍数を測定し、50bpm未満を示した場合

ちなみに、脈拍数は安静時に手首や首の付根、左胸で10秒間測定し、それを6倍すれば1分あたりの脈拍数を概算できるそうです!

感染症

■リンパ球数の減少
添付文書では5%以上認められたと報告されています。
国際共同第Ⅲ相試験では、投与開始28日後より血中リンパ球数の減少が認められたとのことです。また、投与終了後も血中から消失するまでに最長で10時間かかる場合があり、末梢血リンパ球数減少などの薬力学作用は最長で3−4週間持続する可能性があるため、投与終了後においても感染症には注意するよう指導しましょう。

■水痘または帯状疱疹
添付文書では2.6%認められたと報告されています。
免疫機能に作用する薬剤で共通のリスクとされていますよね。投与開始前に既往や予防接種の有無を確認し、必要に応じてワクチン接種が考慮されます。

その他
■クリプトコッカス髄膜炎
■進行性多巣性白質脳症(PML)

黄斑浮腫

他のS1P受容体調節薬の副作用としても知られています。血管内皮細胞のS1P1受容体の発現が低下すると、血管透過性が亢進することが原因で起こるそうです。

投与開始3−4ヶ月後に眼科学的検査の実施が推奨されています。もし投与中に患者さんが視覚障害を訴えた場合は、すぐに眼科検査が必要となります。
糖尿病、ブドウ膜炎、網膜疾患がある場合やその既往がある場合には注意が必要です。

肝機能異常

頻度は5%以上、AST、ALT、ALP、総ビリルビンなど定期的な肝機能検査値の確認が求められます。

血圧上昇

頻度は5%以上、心拍数の測定とともに血圧も測定してもらう習慣をつけてもらうと良いですね!

併用薬の注意

メーゼント®は主代謝酵素がCYP2C9(79.3%)、CYP3A4(18.5%)寄与しています。

併用禁忌は生ワクチン(メーゼント®投与中および終了後最低4週間は避ける)、クラスIa抗不整脈剤、クラスIII抗不整脈剤、ベプリジル(ベプリコール®)となっています。

他にも心拍数を低下させる可能性のある薬剤やβブロッカー、代謝阻害剤や誘導剤は併用注意となっております。

ここでは詳細は書きませんので各自添付文書の確認お願い致します!

まとめ

多発性硬化症の疾患知識やあまり馴染みのない作用機序の整理から始めましたので、長い文章となってしまいました。とても端的にまとめると以下のようになるでしょうか。

  • 遺伝子多型によって用法用量が異なる
  • 徐脈という副作用から導入期の漸増期間には患者やその家族による副作用モニタリングが重要(私の施設では入院での導入がされています。そのときに患者にしっかりと説明します)

少しでも皆さんの理解に貢献できれば幸いです!

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