私は新卒で病院に就職し、5年目も後半に差し掛かりました。
私が入職したころは、病棟に薬剤師は常駐していませんでしたが、一つの病棟から常駐への取り組みが始まり、ICUや小児病棟を除いて薬剤師常駐体制になりました。
過渡期の経験を薬学生や現役の薬剤師さん、他の医療スタッフとも共有できたら良いなあと思い、今回の記事の作成に至りました。少し長くなりましたので、加算についての話などは知っているよという方は「2. 病棟常駐していなかった頃」から読み進めてください。
点数などの情報は2020年12月現在のものになります。最新の情報は日本病院薬剤師会などから確認をお願い致します。
常駐/非常駐って??
常駐って、病棟に常に薬剤師がいるってことでしょ??と思うかもしれません。要するにそうなんですが、常駐するからには業務加算を取る必要があるわけです。
薬剤師が病棟常駐していなかった頃は、薬剤管理指導業務を行っていました。しかし、常駐している現在は薬剤管理指導業務に加えて、病棟薬剤業務を行っています。
ではこの2つの業務の差は何でしょうか?以下にまとめてみました。
・投薬以後の薬学的管理(薬剤の投与量、投与方法、相互作用、重複投与、配合変化、配合禁忌等の確認)
・薬歴確認(重複、処方もれ)、診療録との照合など
・ハイリスク薬の処方監査、患者からの相談応需
・服薬指導、退院時指導
・1週間に1回(月4回まで)算定可。通常325点、ハイリスク薬380点
多岐に渡るのでここでは要約します。
・入院患者の持参薬確認やアレルギー副作用歴、抗血栓薬の確認などの初回面談時の業務の時間も計上される
・主に投与前に配合変化や相互作用、抗がん剤などハイリスク薬の服薬指導
・退院時指導
・カンファレンスや回診に参加
・TDMや副作用モニタリングの内容を医師と共有し処方提案
・多職種からの相談応需や、患者情報の共有
・副作用やプレアボイド報告
・病棟の薬剤在庫管理
・抗がん剤の無菌調製 など
・週1回120点算定(加算1の場合)。病棟薬剤業務加算を取るには、薬剤管理指導業務に要する時間以外に各病棟で1週間に20時間以上の病棟薬剤業務を実施している必要がある。
病棟薬剤業務では投与前の実施、薬剤管理指導業務では投与後の実施というのが味噌ですね。
薬剤管理指導業務のみのときにも、問い合わせ対応や抗がん剤の説明など病棟薬剤業務と共通する内容も行ってはいましたが、1週間に20時間という時間を確保することで病棟薬剤業務の加算をもらうというイメージでしょうか。
では、制度的なところの話はここで終わりにして、次からは実際の私の経験談です。
病棟常駐していなかった頃
私の勤務先では、とにかく中央業務(外来・入院調剤、注射薬調製、抗がん剤調製など)が繁忙のため、病棟担当者も勤務時間8.5時間のうち、4.5時間は中央業務、4時間を病棟業務という今思えば超ハードスケジュールでした。
*勤務例
朝に薬歴やその日の新入院のカルテ確認、準備を行いますが、正直午前中にカルテをみても動きがあるわけではなく、前日の午後の動きを把握するということになり、状況把握がワンテンポ遅れてしまうというのが悩みでした。
患者さんが入院してくる10時以降のいわばゴールデンタイムには中央業務も繁忙な時間となるため、そちらに従事していました。
ようやく14時半以降に病棟にいって持参薬確認しようとしても、検査にいってしまった!麻酔説明にいってしまった!などでなかなか患者さんに会えないなんてこともよくありました。特に入院当日に午後から処置するなんて場合は、患者さんに会えてもまだ鎮静が効いてるとかで話せるような状態ではない…なども経験あります。
また、業務時間の都合上入院時初日に患者さんと面談し、比較的短い入院の方だとそれっきりになってしまうことも多かったです…
そして何より、病棟にいる時間が短いため医師や看護師とのコミュニケーションを取ることができず、とても仕事がやりにくかったです。
患者さんに要望を言われたけど、担当の先生の顔やキャラクターよくわからないし…となり、無難な表現で電子カルテの掲示板に記載するものの、それにとても時間がかかったり。
病棟薬剤師という存在にあまり馴染みがなく、院内の携帯は持っていましたが、問い合わせの電話はたいてい医薬品情報室へいっていましたね。病棟担当でありながら、医師や看護師がどんな疑問を持っているのか、解決すべき問題は何なのかを把握することができていなかったと思います。
この頃は、医師からしてみれば薬剤師は疑義照会の電話をかけてくる煙たい存在だったのではないでしょうか(もちろん全員がそういう風には思ってなかったかもしれませんが)。
病棟常駐してから
どんな風に変わったか
私の施設では2時間は中央業務、それ以外の5.5時間は病棟業務を行っています。
中央業務が忙しい問題はどうやって解決されたのかというと、医薬品のピッキングを外部業者のスタッフに委託したということが大きいと思います(もちろん最終的な確認や責任の所在は薬剤師)。
*勤務例
患者さんが入院したらすぐに持参薬確認ができるようになりました。早めに取り掛かることで、院内採用のない持参薬の代替薬などの情報をすぐに医師へ情報提供できるので、その後の業務が円滑に進みます。
また、病棟にいる時間が長くなり、担当薬剤師の顔を覚えてもらうことで様々な相談を受けるようになりましたし、自分も医師や看護師に自分が持っている患者情報を伝えやすくなりました。電話するほどでもないけどちょっと医師に確認したいことや、教えてもらいたいことも直接声をかけやすくなりました。病棟での関係性が良くなったことから、中央業務で疑義照会する時も良好な関係を築けるようになったように感じます。
さらに病棟にいることで医師が治療方針について話しているのを聞くことができるし、明日からケモだ!といち早く察知し、説明書つくろう!と投与前の説明に向けて準備をすることもできます。とにかく仕事の効率が圧倒的によくなりました。
病棟常駐による成長
以前は医薬品情報室に問い合わせがいっていた内容が、主に病棟担当の薬剤師にくるようになりました。
私たち薬剤師は薬の用法用量とか相互作用とか薬理作用とか、そういう勉強ばっかりしてきたので、実臨床ではどんな疑問が浮かび上がるのか正直わかっていないことが多いです。
私が経験してきた中で難しいなあと思った質問をいくつかピックアップしてみました。
点滴ラインの知識が皆無でした。今ではCVポート、PICC、トリプルルーメンなどを考慮して回答することができるようになりましたが、正直苦手な分野です。
配合変化を直接比較したデータがないことも多いですし、数時間後に含量低下するというデータはあるけれども、実際の投与時間は30分程度だから問題ないと考えられるとか、輸液1000mLに対して2mLの配合だったらおそらく問題ないよねとか、とにかく難しいです。
・肝障害や血小板減少など薬剤性を疑う場合の被疑薬は?
・現在使用中の薬剤で脳症の原因となりそうな薬剤は?
・経口投与不可(経管も不可)の場合の薬剤投与経路変更について
・バンコマイシンの初期投与量設計(特に中等度以上の腎障害のある患者さんだと難しい)
教科書では習わなかったことばかりです。他にも数多くの質問を受け、都度対応してきました。
また、バンコマイシンやテイコプラニン、その他アミノグリコシド系のTDMは基本的に病棟担当の薬剤師が介入するようになりました。
以前は時間を割くことが難しかった退院時指導も行えるようになりました。看護師さんにご家族の来院日をセッティングしていただき、ご家族に服用中の薬剤について説明をしたり、入院中に変更になった点など詳細な説明を行ったこともあります。ちょっと緊張しましたが有意義な時間でした。
病棟常駐で大変な点
薬剤管理指導業務のみを行っていたときよりも病棟業務時間が増えたとは言え、病棟薬剤師が対応する業務量も増えました。
前述のとおり、問い合わせ対応に苦戦すればそれだけでどんどん時間がなくなります。特に経験の浅い2年目、3年目の後輩は大変そうにしています(私は4年目から常駐を経験しているので、それなりに院内のルールとか把握しているし、問い合わせ対応の経験もそこそこにありました。それでも大変なときもある….)
また、自分が担当していない患者さんについても質問されることがあり、情報把握に苦戦します。
あるあるかもしれませんが、多職種と関わる必要があるのでコミュニケーション能力やある程度の忍耐力がないと難しいです。少しコミュニケーションに難がある(語気が強めとか)だとすぐに師長に問題にされて、最悪の場合その病棟に出禁になる、なんて例も目にしました。笑
まとめ
自分の勤務先以外には働き方について情報がないので分かりませんが、完全に常駐している施設もあるのでしょうか?気になります。
長くなってしまいましたが、病棟常駐について要約すると…
- 病棟常駐は圧倒的に効率が良い
- 医師、看護師との関係性が良くなる
- 問い合わせ対応スキルが格段にアップする
- 患者さんの退院後にもフォーカスして服薬指導できる
- 対応能力が求められ、特に新人は大変(どんな業務でもそうですが)
- コミュニケーションスキルは必須
実臨床ではとても困った問題がたくさん起こっています。答えを出すのが難しい問い合わせはたくさんありますが、その中でベターな答えを導きだすことを積み上げることで、困ったことがあったらこの薬剤師に相談しようと思ってもらえるはずです。
長くなってしまいましたが…私は入職したときはどちらかというとカルテと向き合う時間が長く、薬剤師って必要?とやりがいと見出せずにいました。しかし現在は知り合いの医師や看護師さんが増え、薬剤師も悪くないな♪と思っています。
もし病院希望の薬学生さんがこの記事を見てくれているなら、就職活動する際には病棟業務について、中央業務とのバランスについてなどよく質問してみたら良いのではないでしょうか??
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