現在の電子カルテのシステムでは併用禁忌の薬は処方できないようになっているかと思います。
しかし、私の勤務先では疾患禁忌の薬をシステムで処方できないようにすることは現状できていません(できている施設がありましたら教えていただきたいです)。
実際に病棟業務を行っていて、何度も疑義照会をかけたことがありますし、口頭指示で禁忌薬が投与されてしまった!という事例も経験していますので、ぜひ皆さんと知識の共有を行いたいと思います。
今回は特に疑義照会事例の多いパーキンソン病についてです。
パーキンソン病
病態と禁忌薬
パーキンソン病は、黒質ー線条体ドパミン作動性神経経路の変性によりドパミンが不足し、運動の制御が障害されスムーズな運動ができなくなる疾患です。
正常ではドパミンとアセチルコリンのバランスによって線条体の働きが調節されていますが、ドパミンの不足によって相対的にアセチルコリン系の活動が強まっています。
従って、ドパミン拮抗薬やコリン作動性薬はパーキンソン病の症状を悪化させるおそれがあります。
添付文書でパーキンソン病が禁忌と設定されている薬剤は…
<神経系用剤>
- ハロペリドール(セレネース®)
- ブロムペリドール(インプロメン®)
- ネモナプリド(エミレース®)
- ピモジド(オーラップ®)
- モサプラミン(クレミン®)
- スピペロン(スピロピタン®)
- チミペロン(トロペロン®)
- スルトプリド(バルチネール®)
- ピパンペロン(プロピタン®)
<自律神経剤>
- ベタネコール(ベサコリン®)
- アクラトニウム(アボビス®)
<他の消化器官用薬>
- ピロカルピン(サラジェン®)
- セビメリン(エボザック®)
でもちょっとまってください。他にもドパミン拮抗作用の薬剤はたくさんありますよね?
ドパミン拮抗作用の強さとセロトニン受容体
さて、錐体外路症状の出やすさというのはドパミン受容体への親和性の強さや、セロトニン2A受容体への親和性、血液脳関門の透過性などが影響しています。
例えば、クロザピン(クロザリル®)やクエチアピン(セロクエル®)は特に結合親和性が低く、受容体に結合してドパミン系の伝達を遮断してもすぐに離れてしまうため、抗精神病効果は発揮しても運動障害は生じにくいという特徴があります。
一方、抗精神病薬の作用機序としてセロトニン2A受容体を遮断する薬剤もありますよね。セロトニン神経はドパミン神経のシナプス前終末でドパミン放出を抑制しています。したがって、セロトニン受容体遮断薬、特に5HT-2A受容体を遮断する薬剤はドパミン放出を促進し、パーキンソニズムの出現や悪化を防ぐわけです。
リスペリドン(リスパダール®)はハロペリドール(セレネース®)よりも強いドパミンD2受容体遮断作用をもっていますが、5-HT2受容体遮断作用もより強いために、ハロペリドールよりもパーキンソニズムを生じにくいです。
もともと、従来の定型抗精神病薬(フェノチアジン系やブチロフェノン系)ではD2受容体占拠率が高く、それによる錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用が問題となったために、非定型抗精神病薬(SDA、MARTA、DPA)などが開発されたという経緯がありますからね。
スルピリド(ドグマチール®)やチアプリド(グラマリール®)は血液脳関門を通過しにくいため、ドパミンD2受容体遮断作用をもつにもかかわらず、通常はパーキンソニズムを生じないといわれています。しかし、血液脳関門に障害がある血管障害合併者や高齢者では生じることがあります。
嘔気時に処方頻度の高いドンペリドン(プリンペラン®)はパーキンソン病患者には避けられており、ドンペリドン(ナウゼリン®)は末梢性に抗ドパミン作用を発揮し中枢移行性が極めて低いため、処方されています。
経験した症例
抗がん剤治療
パーキンソン病既往の方が抗がん剤治療をするために入院されました。
抗がん剤治療時は、レジメンによってデカドロン®やイメンド®での制吐療法が行われますが、それでも嘔気や食欲不振がある場合は私の施設ではプリンペラン®錠の頓用処方がルーチンで出されます。
神経内科の医師であれば入院したら嘔気時指示は事前にナウゼリン®にしているケースが多いですが、抗がん剤治療のため他科入院となりますので、薬剤師から疑義照会して変更してもらいました。
初回の抗がん剤は入院でその後は外来治療の予定でしたので、入院時に介入しておくことで患者さんへの不利益を避けることができました。
せん妄
私の施設ではせん妄対策として事前に不穏時セレネース®注が指示入力されていることが多いのですが(もちろん内服でリスペリドンなどの指示もありますが、念のための頓用処方として)、パーキンソン病患者さんでは禁忌となりますので事前に削除をしてもらいます。
実は、電子カルテの掲示板上に記載して情報共有し医師は処方を削除していましたが、指示簿(疼痛時や発熱時などの対応について記載されているもの)に不穏時セレネース注の入力が残っていたために、看護師が医師へ電話し、口頭指示でセレネースを投与してしまったというケースを経験しました。その後すぐに医師が気づいて神経内科へコンサルト、インシデントレポートという流れ…
リスクあるものは事前に避ける…大事ですね。
まとめ
薬剤師による処方監査は投与量や相互作用などにはとどまらず、疾患禁忌に気付くということも重要だということがわかる内容だったと思います。
今回の内容は「パーキンソン病診療ガイドライン2018」を参考にまとめさせていただきました。
また、今回は触れていませんが重症筋無力症の患者さんに対してベンゾジアゼピン系の睡眠薬が処方される事例も比較的多くみかけますので、それも疑義照会しています。
患者さんの不利益につながらないよう、縁の下の力持ちとして薬剤師頑張りましょう♪
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