こんにちは、Kです。
今日は外科領域で質問される周術期の抗菌薬についてお話していきます。
私は日本化学療法学会/日本外科感染症学会作成の「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」をよく参考にしています。
周術期の予防抗菌薬選択
まず、周術期の予防抗菌薬投与の目的は手術部位感染(SSI)発症率の低下です。
ですので、多くの清潔創(クラス I)では,本来 SSI 発症率がきわめて低率であり,予防抗菌薬の有用性の証明は困難と言われていますが投与されている例が多いのではないでしょうか?
I. 清潔創
炎症のない非汚染術創,呼吸器、消化器、生殖器、尿路系に対する手術は含まれない など
II. 準清潔創
管理された状態の呼吸器、消化器、生殖器、尿路系手術,特別な汚染がない など
III. 不潔創
開放性の、新しい事故などによる偶発的な創傷,開胸心マッサージなど清潔操作が著しく守られていない場合,術中に消化器系から大量の内容物の漏れが発生した場合 など
各手術における抗菌薬の選択は実際にはクリニカルパスで各施設で決まっているでしょう。主にβラクタム系で登録されていることが多いと思いますが、問題になるのは患者さんにアレルギーがある場合です。
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインではβ-ラクタムアレルギーがある場合の選択について下記の表にまとまっています。
手術の創クラス | 必要な抗菌スペクトラムと抗菌薬選択 | ||
グラム陽性菌 | グラム陰性菌 | 嫌気性菌 | |
清潔創 | クリンダマイシン, バンコマイシン | ||
準清潔創 | アミノグリコシド系,フルオロキノロン系, アズトレオナム+クリンダマイシン/バンコマイシン | ||
準清潔創(下部消化管,婦人科手術,口腔・咽頭手術) | アミノグリコシド系,フルオロキノロン系 | メトロニダゾール(下部消化管,婦人科) クリンダマイシン(口腔・咽頭) |
ここには記載はありませんが、グラム陽性菌、グラム陰性菌に抗菌活性をもつことから、準清潔創の手術で代替薬としてホスホマイシンを提案したこともあります。このときは80歳以上とご高齢で腎機能に懸念があったため、感染制御部(ICT)薬剤師の助言のもとレボフロキサシンではなく、ホスホマイシンにしました(あくまで私の経験です)。
サンフォード感染症ガイドに記載のホスホマイシンの抗菌活性について下記に記載しておきますね。
- グラム陽性菌:S. aureus (MRSAを含む),S. epidermidis,S. pneumoniae,E. faecalis およびVRE
- グラム陰性菌:E. coli,Proteus属,Klebsiella/Enterobacter属,Serratia属,Salmonella属,Citrobacter属,Providencia属
術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドラインには、各論で術式毎の推奨抗菌薬について記載があるのでぜひチェックしてみてください♪
術中の追加投与
ガイドラインでは、手術が始まる時点で十分な殺菌作用を示す血中濃度、組織濃度が必要であり、切開の1時間前以内に投与を開始するよう推奨しています(バンコマイシンとフルオロキノロン系は2時間前以内に投与を開始)。
長時間の手術の場合には術中の追加再投与が必要になります。一般には半減期の2倍の間隔での再投与が行われます。腎機能低下例では間隔を延長します。
各薬剤の半減期、腎機能毎の再投与のタイミングについてはガイドラインに表でまとまっていますのでご確認お願いします。
まれに診療科判断でゾシン注(ピペラシリン/タゾバクタム)やメロペン注(メロペネム)の術中再投与のタイミングについて質問をうけます。これらの抗菌薬を術中に使用することが適正使用なのかはさておき、半減期を参考に回答しています。
まとめ
いかがでしたか?
アレルギーがあるときの代替薬、再投与のタイミング、腎機能低下時の投与間隔については病棟薬剤師として質問を受けることが比較的多いので、今回記事にしてみました。
私もまだまだ勉強不足で心配なので、ICT薬剤師の助言のもと日々問い合わせ対応をしています。皆さんのご参考になれれば幸いです。
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