MRSAと薬剤選択

今回はMRSAについてお話していきます。私自身、抗菌薬専門というわけではないですが、MRSAは病院での日常業務で比較的見かけますし、TDMを行う際に必要な知識となるので今回題材として選びました。

MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019をもとにしていますのでよければご参照ください。

MRSAとは

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 methicillin-resistant Staphylococcus aureus、略してMRSAです。

黄色ブドウ球菌は非常にありふれた菌で髪の毛や皮膚、鼻の粘膜、口腔内、傷口などに存在します。ただし、入院患者で抵抗力が低下した人、大手術後、血管内に長期間カテーテルが入っている人、抗がん剤治療を受けている人などがMRSAに感染すると重篤化するおそれがあります。

MRSAを保菌している人もいますが、保菌の場合には治療する必要はありません。しかし、すべての患者がMRSAの保菌の有無がわかるわけではないので、手指衛生をはじめとする標準予防策の徹底が院内におけるMRSAの伝播を防ぐ有効な手段になるわけです。

抗MRSA薬の種類と特徴

  • グリコぺプチド系:バンコマイシン(VCM)、テイコプラニン(TEIC)
  • アミノグリコシド系:アルベカシン(ABK)
  • オキサゾリジノン系:リネゾリド(LZD)、テジゾリド(TZD)
  • 環状リポペプチド系薬:ダプトマイシン(DAP)

 

<抗MRSA薬の承認されている適応症>

適応症VCMTEICABKLZDTZDDAP
肺炎・肺膿瘍・膿胸
慢性呼吸器病変の二次感染
敗血症
感染性心内膜炎
深在性皮膚感染症 慢性膿皮症
外傷・熱傷および手術創の二次感染
びらん・潰瘍の二次感染
骨髄炎・関節炎
腹膜炎
化膿性髄膜炎
MRSA、またはMRCNS*感染が疑われる発熱性好中球減少症

*MRCNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌

 

<抗MRSA薬の特徴>

  • VCM、TEIC、ABK、DAPは、ほとんどは生体内で代謝を受けず腎より排泄されます。
  • LZDは非酵素的に、TZDは肝の硫酸転移酵素により代謝を受け、非活性代謝物がそれぞれ尿もしくは糞便にて排泄されます。したがって、尿路感染症に対して通常オキサゾリジノン系は選択されません。透析患者でも用量調節不要とされていますが、透析による除去率はTZDでは約10%、LZDでは約30%であり、LZDは透析後投与が推奨されています。
  • DAPは肺での不活性化による効果減弱が見られるため肺炎には適応がありません。

具体的な保険病名に準じた疾患別薬剤選択についてはガイドラインに表にまとめて記載されていますので、ここでは割愛させていただきます。

抗MRSA薬の選択

それでは抗MRSA薬はどのように選択されるのでしょうか?上記の内容はガイドラインを見れば誰でもわかりますので、実臨床ではどのように行われているのかを経験を踏まえてお話します。あくまで私の施設での話になるので、他の施設では異なる対応がされているかもしれませんがご了承願います。

血液培養、胆汁培養、腹水などからMRSAが検出された場合、多くは感染制御チーム(ICTにコンサルテーションオーダをかけています。主科でVCMなど使用したい抗菌薬をある程度決めていて、ICTに確認することが多い印象です。

私の施設では、乱用による耐性菌出現を防ぐためにLZD、TZD、DAPはICT許可制としており、また適応の多さからVCMが投与される例が多いですが、腎機能障害例であればTEICが推奨されることもあります。ABKは適応症が少なく、また血中濃度測定を外注しており結果がでるまでに数日を要すためあまり使われていないです(ガイドラインより、ABKは承認申請当時日本にまだ抗MRSA薬がなく、医療現場にて早急に求められていたことから、肺炎と敗血症に限定した申請がなされた経緯があるようです)。

VCM、TEIC、(ABK)投与例では私の施設ではほぼ100%TDMを実施し、薬剤師が介入している大きなポイントとなっています。

VCM初期投与量設計について医師より問い合わせを受けることもありますし、医師が処方した処方量にまった!をかけることもあります。薬剤師の腕の見せ所です。VCMはやはり腎機能障害が懸念されるのでTDMガイドラインを参考に投与量設計をしていきますが、患者別にクレアチニン、eGFR、BUNの推移をみてガイドラインより少なめを推奨するなど介入します。私自身まだ経験が不足しているので上級薬剤師やICT薬剤師へ相談しながら日々勉強中です。

(おまけ)TZDについて

テジゾリド、商品名シベクトロは2018年8月に発売された比較的新しい薬です。

LZDと同じ仲間のオキサゾリジノン系の新しい抗MRSA薬で、リボソームの 50S サブユニットに結合して 70S 開始複合体の形成を阻害することにより、細菌の蛋白質合成が阻害され、菌の増殖を抑制します(難しい…)。

LZDは1日2回投与ですが、TZDは1日1回投与です。点滴静注用剤と経口剤の2種類あり、経口剤のバイオアベイラビリティは91.5 %のため注射薬から経口へ切替時は同量で可です。重度腎機能障害患者、血液透析患者へも用量調節は不要と考えられています。皮下脂肪組織及び骨格筋組織への良好な組織移行性を示すので、ガイドラインにおいて皮膚・軟部組織感染症の第一選択(A-1)となっています。

医薬品リスク管理計画書(RMP)では重要な特定されたリスクとして

  • 偽膜性大腸炎
  • 骨髄抑制(血小板減少、好中球減少症など、1種類以上の血液細胞の減少)
  • 末梢性ニューロパチー及び視神経障害
  • 乳酸アシドーシス

が挙げられています。偽膜性大腸炎は抗菌薬の共通の特定されたリスクと認識されているため選定されています。他の3つについてはLZD投与症例で報告されていることから、TZDにおいても評価の必要があるため選定されています。

まとめ

今回は各論ではなく、ざっくりと全体像のお話でしたが参考になりましたか?ガイドラインを読んでも実臨床になかなか活かせないことが多いので、経験談も混ぜながら書いてみました。

TDMを行うときに、血中濃度の指標域はどこかを判断する必要がでてきます。感染症の知識はそこに活きてくるはずです!MRSAだけでなく、例えばカテーテル関連血流感染症(CRBSI)など…

医師に信頼してもらえる薬剤師になるために、疾患知識もつけていきましょう

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