こんにちは、Kです。
私は現在消化器外科を担当しているのですが、外科領域で入院患者さんの持参薬を確認する中で特に重要なのが、抗血栓薬・抗凝固薬、糖尿病薬(インスリン含む)、ステロイド薬です。
周術期適切に抗血栓薬を中止できているのか、糖尿病薬の用法用量・インスリンの単位数の詳細な聞き取り、ステロイドの用量は??どれも聞き取り間違いでインシデントが起こっているのを現場でみてきました。
私がまだ1年目だったころ疑問だったのが、「周術期のステロイドカバーってどれぐらいの用量を飲んでいるとき…??」ということです。今回はステロイドカバーについてわかりやすく解説していきます。
副腎不全とは?
副腎皮質ホルモンは視床下部からの指令により下垂体からACTHが放出され、そのACTHが副腎からのコルチゾールの分泌を促進します。コルチゾールは視床下部、下垂体、副腎に作用してACTHやコルチゾールの分泌を低下させます(ネガティブフィードバック)。
人間の体内ではプレドニゾロン換算で1日に約3mgのコルチゾール分泌がされているといわれています。ステロイド内服患者では外部からの補充により、視床下部や下垂体からの指令が減少し、コルチゾールの分泌も低下してしまいます。これが持続すると副腎皮質が委縮して機能を発揮できなくなります。
この状態で突然ステロイドの服用を止めてしまうと、副腎皮質からの十分なコルチゾールの分泌が起こらないため、副腎不全となってしまうわけです。
すなわち、長期ステロイド内服患者は外部からのステロイド補充により視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)が抑制されており、手術の侵襲に対して適切な量のステロイド産生ができなくなっているためステロイドカバーが必要となります。
ステロイドカバーが必要となる用量とは
Up To Dateより参考となる部分を紹介させていただきますね。
周術期ステロイドカバーの対応不要
・用量に関わらず糖質コルチコイドの投与期間が3週間未満
・プレドニゾロン<5mg/日朝投与の場合
・プレドニゾロン<10mg (1日おき)高リスク
手術のストレスに応じてステロイドカバーを行う
・プレドニゾロン20mg/日以上を3週間以上服用
・クッシング症候群の患者中等度リスク
術前にHPA系の評価が必要
・プレドニゾロン5-20mg/日を3週間以上服用
・プレドニゾロン5mg未満でも夜に服用している場合は日内変動が崩壊している可能性があり、手術ストレスに対し対応できない可能性がある
・過去に長期間、高用量のステロイド投与歴がある(副腎不全は完全に回復するまでに1年かかるとも言われているが、エビデンスは明確ではない)出典:UpToDate, The management of the surgical patient taking glucocorticoids
ステロイドカバー量は
こちらもUp To Dateを参考に表にまとめました。
重症度 局麻 or 軽度侵襲 中等度侵襲 重度侵襲 具体例 鼠経ヘルニア 下肢血行再建術,人工関節置換術 食道胃切除術,全腸摘出,開心術 投与量 通常量内服 通常量内服+術直前ヒドロコルチゾン50 mg点滴+術後24時間は8時間ごとに25 mg点滴 通常量内服+術直前ヒドロコルチゾン100 mg点滴+術後24時間は8時間ごとに50 mg点滴。その後は1日ずつ半量にし、通常量へ戻す。 出典:UpToDate, The management of the surgical patient taking glucocorticoids
食道や大腸などの消化器の手術は侵襲が高く、また、飲水や食事再開まで慎重な経過を辿りますのでステロイドカバー量が多くなりますね。ステロイドカバーの方法は文献によって異なりますが、私の職場では腎臓内分泌代謝内科へコンサルテーションし、指示をもらうという方法で行われています。
まとめ
いかでしたか?この患者さんはステロイドを飲んでいるのにステロイドカバーがされていない!と医師へ言ってしまうと薬剤師として信用を失いかねません。
上記のように、ステロイドの用量、手術の侵襲度によってステロイドカバーが必要なのかそうでないのか判断できるようになると仕事がしやすくなります。例えば長期入院患者で急にOpeすることになったとき、薬剤師目線でアセスメントし必要であれば医師とコミュニケーションをとって確認すれば活躍の幅が広がりますね!
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