最近、ドラッグストアの市販薬コーナーをみてびっくりしました。アセトアミノフェン含有の市販薬の棚がごっそり空になっていたのです。
アセトアミノフェンばかり売れているのはメディアの影響でしょうか…解熱鎮痛剤といえばロキソニンやイブなどが有名ですが、それらはだめなのか?
今回はアセトアミノフェン以外の解熱鎮痛剤の使用について一般の方向けに調べてみました。
ちなみに、ワクチン接種後、症状が出る前に予防的に解熱鎮痛剤を使用することは推奨されておりません。ワクチンを打ったら解熱鎮痛剤を飲まなきゃいけない!ということはないので、その点認識をお願いします。
厚生労働省からの発表
インターネットで検索すればどなたでも見られますが、さっくりと引用しますね。
ワクチンを受けた後の発熱や痛みに対し、市販の解熱鎮痛薬(※)で対応いただくことも考えられます…(中途略)…(※)市販されている解熱鎮痛薬の種類には、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン)などがあり、ワクチン接種後の発熱や痛みなどにご使用いただけます。(アセトアミノフェンは、低年齢の方や妊娠中・授乳中の方でもご使用いただけますが、製品毎に対象年齢などが異なりますので、対象をご確認のうえ、ご使用ください。)
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0007.html
アセトアミノフェンだけでなくイブプロフェンやロキソプロフェンも良いよと言ってくれていますね。
ちなみにアメリカの国際安全衛生センター(以下CDC)には以下のような記載がされています。
Talk to your doctor about taking over-the-counter medicine, such as ibuprofen, acetaminophen, aspirin, or antihistamines, for any pain and discomfort you may experience after getting vaccinated. You can take these medications to relieve post-vaccination side effects if you have no other medical reasons that prevent you from taking these medications normally.
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/expect/after.html
It is not recommended you take these medicines before vaccination for the purpose of trying to prevent side effects.
CDCにおいてもイブプロフェン、アスピリンなどの市販薬を服用しても良いという見解ですね。
私が先日行ったドラッグストアにはロキソニンSはたくさん在庫されていたので、ワクチン接種に備えてまだ解熱剤を買えてないよという方も安心です。
それでは、非ステロイド性抗炎症薬とアセトアミノフェンは何が違うのかを解説していきます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)とアセトアミノフェンの違い
私、現役の薬剤師でありながら何が違うのと聞かれると答えるのが難しいです(説明しても多分単語が難しくて理解してもらえない)。今回はせっかくなので解説。
からだの中では、「アラキドン酸」という物質が「シクロオキシゲナーゼ」と呼ばれる酵素によって分解されて「プロスタグランジン」という炎症物質がつくられます。
NSAIDsはこの「シクロオキシゲナーゼ」の働きを阻害して「プロスタグランジン」という炎症物質が作られるのを防ぐというわけですね。
シクロオキシゲナーゼ阻害作用は殆どなく,脳の視床下部の体温調節中枢に作用して皮膚血管を拡張させて体温を下げます。
鎮痛作用は視床と大脳皮質の痛覚閾値をたかめることによると推定されます。(参考:カロナール®錠添付文書)
市販されているNSAIDsの例
ごくごく一部ですが、市販薬をピックアップしました。
ロキソプロフェン
- ロキソニン®S
- バファリン®EX
イブプロフェン
- イブ®
アスピリン
- バファリン®A
- バイエルアスピリン®
NSAIDsを使えない人
NSAIDs使用にあたっていくつか注意点があります。以下に挙げる人は使用しない方が良いです。
- 胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍のある人
- 腎臓の機能が低下していると医師より言われている人
- NSAIDsを服用して喘息発作が起こったことがある人
- 妊娠後期の女性
- その他皮疹などのアレルギー歴がある人
それぞれについて解説していきます。
消化管に潰瘍のある人
先程NSAIDsは炎症を引き起こす「プロスタグランジン」という物質を減らすと説明しましたが、実はプロスタグランジンの中には細胞保護効果をもつやつもいるんですね。
それらがNSAIDsにより減少してしまうので胃障害が起こりやすくなります。したがって消化性潰瘍のある方には使用はできません。
また、NSAIDsを服用することで胃が痛くなる経験がある方も避けた方が良いですね。
腎機能の低下を指摘されている人
NSAIDsにより腎臓の血流量が減少することで腎機能障害が出現することがあります。といっても通常健康であれば使用しても問題ないですが、血液検査で腎機能の低下が指摘されている人が避けた方が良いです。
また、炭酸リチウム、メトトレキサートなど併用薬によっては腎臓への影響を懸念して避けられることが多いです。
NSAIDsにより喘息発作が起こったことのある人
アスピリン喘息と言われ、成人喘息の約 10%とされています。
「シクロオキシゲナーゼ」が阻害されて「アラキドン酸」が増えると、これを材料として気管支収縮を引き起こす物質の合成が行われて喘息の発作が誘発されると考えられているようです。
NSAIDsを服用して喘息発作が起こったことがあるという方は避けましょう。
妊娠後期の女性
もともと、妊娠後期(28週頃)以降にNSAIDsを服用すると胎児の動脈管収縮が報告されており、使用しないよう言われていました。
2020年11月には米国食品医薬品局(以下、FDA)よりNSAIDsの薬剤安全情報について発出がありました。
その情報というのは、妊娠20週以降に非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)を使用すると、まれではありますが重篤な腎障害を胎児に引き起こす可能性があり、それに伴い羊水が減少するというものです。
FDAはNSAIDs治療が必要であると判断された場合は、可能な限り効果的な最低用量および最短期間での使用に限定すること、NSAIDs治療が48時間を超える場合は、超音波による羊水のモニタリングを検討し、NSAIDs治療を中止するよう推奨しています。
日本では医療従事者の管理下で定期的に妊婦健診が行われている医療実態を踏まえ、添付文書には「継続投与48時間」等の具体的な期間は明記されていないようですが、適宜羊水量の確認が必要となるそうです。
妊娠20週以降の妊婦さんが市販薬のロキソプロフェンやイブプロフェンなどのNSAIDsをご自身で購入して服用することは避けた方が良いでしょう。
FDAの文書はこちら http://www.jsog.or.jp/news/pdf/NSAIDs_10-15-2020%20FDA%20Drug%20Safety%20Communication.pdf
まとめ
アセトアミノフェンは肝機能障害など注意は必要ですが、上記のNSAIDsが使用できない方に対して使用しやすいお薬です。また小児や妊婦さんにも使用しやすいです。
アセトアミノフェンが小児に処方される場合1回10-15mg/kgで使用されますが、市販薬では小児に適応がない場合がありますので購入前に店頭の薬剤師に確認してください。
市販薬は名前が一文字違うだけで入っている成分が異なる場合がありますので、本当によく注意してください(バファリン®ルナiとバファリン®ルナjなど)。
また成分が1つのみの場合と複数含まれている場合もあるので、心配な方は店頭の薬剤師や登録販売者に確認しましょう。
ワクチンによる発熱は接種後1~2日以内に起こることが多く、必要な場合は解熱鎮痛剤を服用するなどして様子をみることになります。
ただし2日間以上熱が続く場合や、症状が重い場合、ワクチンでは起こりにくい症状(咳や咽頭痛、味覚・嗅覚の消失、息切れ等)がある場合には医療機関への受診や相談を検討した方が良いので、むやみに解熱剤を飲み続けるというのは避けてくださいね。
また冒頭でもお伝えしていますが、予防的に解熱鎮痛剤を服用することは推奨されておりませんので、ワクチンを打ったから飲むぞ!というふうには思わないでくださいね。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
コメント