【カリウム製剤】教科書と実臨床のギャップ

薬剤師国家試験に合格しいざ薬剤師として病院で勤務していると、教科書で学んだことが実臨床では違うという経験がいくつかありました。

今回はカリウム製剤(注射)について、私の経験をお伝えします。

【復習】カリウム製剤の3原則

医療系の学生、医療職であればKCLの原則についてご存知かとは思いますが…

  1. 40mEq/L以下の濃度に希釈
  2. 20mEq/h以下の投与速度
  3. 100mEq/日を超えないこと

これ学生のときに必死に覚えました。Lに1本足すと4だから40mEq/L、hはひっくり返すと2に似てるから20mEq/hとかで無理やり覚えてました、はい。

カリウムの急速静注で不整脈、心停止を起こす可能性があり、プレフィルドシリンジという静注できないような形態になっていることは皆さんご存知の通りかと思います。

実際の現場では

さて、病院薬剤師になり注射処方箋をみると、「えっ、濃度濃いじゃん…」という事例がたくさんあったんですよね。何なら原液投与もされていて、初めてみたときはとても混乱しました(後ほど解説します)。

濃度が濃い事例の場合、投与経路はCV(中心静脈カテーテル)、もしくはPICC(末梢挿入型中心静脈カテーテル)でした。40mEq/L以下という規定は、末梢から投与する際に血管痛が出現するためなんです。

厚生労働省が作成している「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低カリウム血症」には以下のように記載されています。

緊急時には、カリウム製剤の点滴を行うこともある。この場合は、点滴内カリウムの濃度は40mEq/L以下にし、最大投与速度は20mEq/時以内にとどめ、1 日カリウム投与量も100mEq以下にするべきである。ただし、心不全・不整脈や腎不全などでこれらの濃度や総投与量を上回る投与が必要な場合は、集中治療室などモニタリングが十分できる体制で投与を行う

また、症例については以下のように記載されています。

現病歴:79 歳時に高血圧、発作性心房細動、慢性心不全にて近医で加療を受けていた。腎機能悪化(血清Cr3.27 mg/dl, eGFR 11.0 ml/min/1.73m2)ならびに貧血 (Hb 7.1 g/dL)で入院となった。血清 K 3.2 mEq/L とやや低値であり、…(中略) …超音波検査にて両腎とも萎縮し、病歴から動脈硬化性腎硬化症と診断された。退院後、…(中略)…昼食後椅子に座っていたところ数分間の意識消失あり、当院救急受診された。血清 K1.5 mEq/Lと低値であり、心電図で一過性 Torsades de Pointes波形を認め、緊急入院となった。

入院後経過:CCU に入室し、中心静脈より高濃度のカリウム溶液の投与を行った。モニター管理下にて KCL 20mEq/生理食塩水50mLを50mL/時で、1 日100mEqのカリウム補充を行った。第二病日には血清K2.7mEq/Lと上昇し、内服の塩化カリウム徐放剤3600mgを開始し、中心静脈のカリウム投与は40 mEq/Lに減量した。

規定の濃度や1日投与量を超える場合は、しっかりとモニタリングを行いながら投与することが重要ということですね。

【補足】KCLの原液・高濃度投与

私の元勤務先での話なので、施設によって異なるかと思いますが、原液投与(もしくは高濃度投与)する場合は医療安全部というのがしっかりと関わっていました。

投与が認められていたのは申請のあった診療科のみでしたし、投与可能な場所はICU・HCUのみで一般病棟はもちろんだめでした。

主に使用されていたのは心臓血管外科の術後でしたね。(あまり詳しくはわかりませんが、心臓血管外科の術後は不整脈が起こらないように電解質管理をしっかりしているという認識でしょうか)

【まとめ】カリウム製剤の認識

高濃度のカリウムの投与について述べてきましたが、医療従事者であればカリウムの3原則についてしっかりと頭に入れておく必要がありますね。500mLの輸液1本に対し、KCL注20mEq/20mL 1本までが原則です!

各施設では安全対策としてカリウム製剤の在庫は病棟には置かない(ICUなど限られた病棟にのみ置く)、電子カルテにポップアップとしてKCL注の濃度、投与速度について注意喚起が出るなど様々な対応がされていることと思います。

実際に、私も病棟の看護師さんから「先生のオーダーが生食500mLにKCL注2本で規定を超えていると思うのですが良いのか?」と投与前に電話がかかってきたことがありました。

ドクターに私から電話連絡し、PICCであること、また、低カリウムが続いておりKCL注の混注量を増やしたいこと、体液管理でINを増やしたくないという事情があること、しっかりと電解質モニタリングをして投与するということを確認し、電子カルテの薬剤師記録にもやり取りを残すことで対策しました。

実際の現場には教科書ではわからないことがたくさんあります。少しでも今回の記事が役に立てば幸いです。

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