【5剤目のJAK阻害薬】ジセレカ®錠

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関節リウマチで使用されているヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬。どんどん発売されており、最近では2020年11月にジセレカ®錠が販売開始され、計5剤となりました。

ゼルヤンツ®錠   2013年7月
オルミエント®錠  2017年9月
スマイラフ®錠   2019年7月
リンヴォック®錠  2020年4月
ジセレカ®錠    2020年11月

ちなみに2021年3月現在、ゼルヤンツは潰瘍性大腸炎、オルミエントはアトピー性皮膚炎にも適応があります。

今回は、ジセレカ®錠(フィルゴチニブ)と他4剤を比較し、私なりに気になったポイントをピックアップしまとめてみました。ぜひ、参考にしていただけると幸いです。本記事はジセレカ®錠の添付文書、インタビューフォーム、RMPを参考に作成しています。

代謝と排泄

1つ目は代謝と排泄のされ方です。

フィルゴチニブは、主にカルボキシエステラーゼ1とカルボキシエステラーゼ2で代謝され、循環血漿中では大部分(92%)が活性代謝物であるGS-829845として存在します。

また、フィルゴチニブは約87%が尿中、約15%は糞中に排泄されます。

代謝にCYPが関与していないため、CYP阻害剤や誘導剤との併用注意は設定されていません。次の項目で相互作用についてさらに詳しく確認していきます。

相互作用

代謝はカルボキシエステラーゼでされることは前述の通りですが、フィルゴチニブ及び、活性代謝物であるGS-829845はP糖タンパク質の基質です。また、フィルゴチニブはOCT-2、MATE1,2-Kの阻害作用を、GS-829845はOCT2、MATE2-Kの阻害作用を有します。

イトラコナゾール(強力なP-糖タンパク阻害薬)、リファンピシン(強力なP-糖タンパク誘導薬)を用いた相互作用試験で、臨床的意味のある相互作用は示されなかったとのことです。

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ジセレカ®錠インタビューフォームより抜粋

また、フィルゴチニブが併用薬の薬物動態に及ぼす影響について、メトホルミン(OCT、MATE基質)を用いた相互作用試験で、臨床的意味のある相互作用は示されなかったとのことです。

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ジセレカ®錠インタビューフォームより

他のJAK阻害剤のうち、リンヴォック®錠、ゼルヤンツ®錠は代謝にCYPが関与しています

腎機能障害での用量調整

代謝と排泄の項目で述べていますが、ジセレカ®錠は主に腎排泄の薬剤です。
腎機能障害のある被験者を対象とした薬物動態試験において、以下のような結果が出ています。
 
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ジセレカ®錠インタビューフォームを元に作成

腎機能障害患者では正常な患者に比べ、フィルゴチニブの主要代謝産物であるGS-829845の曝露量が増加し、副作用が強く現れるおそれがあるため、腎機能によって下記のように用量調整するように定められています。

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ジセレカ®錠インタビューフォームより

オルミエント®錠も腎機能による用量調整について添付文書に明記されています。

副作用とリスクマネジメントプラン

添付文書に記載されている重大な副作用は以下の通りです。

  • 感染症:帯状疱疹(0.2%)、肺炎(0.3%)等の感染症(日和見感染症を含む)
  • 消化管穿孔(頻度不明)
  • 好中球減少(0.1%)、リンパ球減少(0.1%未満)、Hb減少(頻度不明)
  • 肝機能障害:ALT上昇(0.8%)、AST上昇(0.7%)
  • 間質性肺炎(頻度不明)
  • 静脈血栓塞栓症(頻度不明)

上記はリスクマネジメントプラン(RMP)の「重要な特定されたリスク」にも指定されています(上記に追加でB型肝炎ウイルスの再活性化も指定されています)。他の4剤とおおむね同じ内容です。

ここで、RMPのうち「重要な潜在的リスク」に着目してみましょう。4剤には、共通して悪性腫瘍、心血管系事象、横紋筋融解症・ミオパチーが設定されていますが、ジセレカ®錠はこれらに追加して精子形成障害を伴う男性の生殖能低下、低リン血症が設定されています

男性の生殖能低下について、ラット及びイヌで精子産生の停止、精子細胞の喪失、精巣萎縮を示す用量依存的な精子形成障害が認められたために設定されているそうです(現在外国人男性被験者を対象として臨床試験が実施されているそう)。

低リン血症については機序は不明ですが、第2相/第3相併合安全性解析対象集団においてプラセボ/MTX投与例に比較してジセレカ®投与例で多く報告されたことから設定されています。

上記2点について患者指導用パンフレットにも記載されています。

帯状疱疹

最後に帯状疱疹について。

関節リウマチの患者さんにおいて、基礎疾患や免疫抑制療法の併用で帯状疱疹のリスクが高まることが知られていますが、JAK/STAT経路は多数のインターフェロン、インターロイキン及びサイトカインのシグナル伝達経路に関与しており、ジセレカ®︎以前に発売されていた他のJAK阻害剤や、TNF阻害剤等の関節リウマチで使用する他の免疫調節薬を使用した際に帯状疱疹が報告されています。

アジア人、特に日本人と韓国人は、JAK阻害薬で治療を受けているリウマチ患者さんにおいて帯状疱疹の罹患率が高いといわれているそうです。JAK阻害薬の安全性プロファイルを比較したデータのうち、帯状疱疹についてピックアップしてみました。

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Drugs(2020)80:1183-1201を元に作成

スマイラフ®は帯状疱疹の罹患率が高そうに見えますが、日本人でのデータなので高めに出ているようです。また、ジセレカ®は他のJAK阻害薬と比較して帯状疱疹の罹患率が低めですが、もっと大規模、長期的ななデータベース解析が必要とのこと。

今後の調査結果を確認したいところですね。

参考文献 Drugs(2020)80:1183-1201

まとめ

5つもJAK阻害剤があると、違いを把握するのが難しいですよね。私はJAK阻害剤といえばゼルヤンツ®と思っていたら、どんどん増えていって理解が追いつきませんでした。

今回は2021年3月現在で最新の薬剤であるジセレカ®を他の薬剤と比較しながら勉強してみました。日常業務に少しでもお役に立てると幸いです。

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