睡眠薬と周術期のせん妄

こんにちは、Kです。

外科領域担当では抗血栓薬や糖尿病薬、ステロイドのように重要な確認事項がありますが、意外と大事なのが睡眠薬の使用状況です。睡眠薬の種類によってはせん妄を引き起こす可能性があります。

せん妄という言葉は知っていてもピンとこない学生さんは多いのではないでしょうか?私もそうでした。今回は実際に経験した例をご紹介します。

せん妄のリスク因子

せん妄とは、時間や場所が急にわからなくなったり、話の辻褄が合わなくなる、幻覚が見えるなどの状態を言います。そのリスク因子は多数あり、下の表に示しました。

準備因子高齢、認知症、脳器質性疾患の既往、アルコール多飲、せん妄の既往
直接因子身体疾患、薬剤、手術、アルコール(離脱)
促進因子(誘発因子)身体的苦痛(不眠、疼痛、便秘、尿閉、視力/聴力低下など)、精神的苦痛(不安、抑うつなど)、環境変化(入院、ICU、騒音など)

引用:Lipowski ZJAcute Confusional States. New York, Oxforf University Press, pp490, 1990

このうち、せん妄の原因となる薬剤は多数挙げられますが、主なものは…

  • ベンゾジアゼピン系薬
  • 抗パーキンソン病薬・抗コリン薬
  • H2受容体拮抗薬

と言われています。

せん妄の実際

せん妄が起こるリスクが高いと言われても、実際に臨床経験がないと薬剤変更を提案しにくいですよね?そこで実例を紹介します。

全身麻酔の手術後、1日ほどHCU滞在し、すぐに一般床に戻ってきた患者さん。アルコール多飲歴なし、年齢は50代で高齢とはいえない方でした。マイスリーを持参薬として飲んでいた方なのですが、術後の飲水再開のタイミングで自身の判断で飲んだみたいなんですよ。私が実際にみたのではなく、看護師さんの記録を見ただけなのですが…廊下で大きな声を上げて大暴れしており、看護師さん3人がかりで部屋に連れ戻したとか…翌朝ご本人は記憶がなく、なぜか体にあざができている…という状況。

そのほかにもマイスリー内服中の方で「私ね、前の入院中に知らない間に点滴を引き抜いたりカーテンを破いてしまったことがあるみたいなのよ…」とおっしゃる方も。

睡眠薬、侮れません。

他職種連携

私の勤務先では、入院時に看護師さんがせん妄のリスク評価をアセスメントシートに沿って行ってくれています。薬剤師は薬視点ですが、看護師さんはアルコール多飲歴や認知機能などからせん妄リスクを評価します。

また、睡眠薬については薬剤師から看護師さんへ声かけし、せん妄リスク評価に加えてもらうこともありますし、場合によっては看護師さん自身でベンゾジアゼピン系服用中の方の睡眠薬変更について医師へ確認までしてくれています…頭が上がりません。

睡眠薬変更の代替案

では、ベンゾジアゼピン系の薬剤を使用していた方にはどう対応するかというと、私の勤務先では院内でフローチャートのように決まっておりどの職種がみてもわかるようになっています。

定時薬ではロゼレム、ベルソムラですが、不眠時の頓服指示としてレスリンもしくはテトラミドが使用されます。新人の頃はレスリン不眠時、テトラミド不眠時…??と処方箋をみて疑問に思っていました。レスリン(成分名:トラゾドン)もテトラミド(成分名:ミアンセリン)も医薬品集で調べても睡眠薬としての適応はないですからね。

レスリンはセロトニン5-HT2A受容体拮抗作用、テトラミドは四環形抗うつ薬として薬理作用の一つに抗セロトニン作用があり、鎮静作用により不眠に使用されるんです。

レスリンは半減期6-7時間、テトラミドは半減期約18時間のため、私の勤務先では半減期の短いレスリンの方が使用されています。

まとめ

入院された患者さんの睡眠薬使用状況の聞き取りは重要ということがわかりましたか?他にも内科的治療で入院されたとき判断に困ることがあります。その場合は、医師・看護師と直接話して患者さん個人のせん妄リスクについて共有し、注意して観察しながら持参薬の睡眠薬継続となることもあります。薬剤師だけでは解決できない問題なので、他職種との連携が必要であり、医療者として成長できる項目ですね。

今回の記事が少しでも役に立っていれば嬉しいです。

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