こんにちは、Kです。
病院薬剤師の業務の特徴の一つとして、抗がん剤調製が挙げられます。私の勤務先では調剤課所属であっても注射調製業務を行えるよう若手育成制度が整っています。
私はかれこれ4年間ほど抗がん剤調製に携わってきましたので、今回は教科書には載っていない抗がん剤調製のコツをお伝えしていきますね!
基本操作
抗がん剤調製の手順を取得することは、自分を曝露から守るために重要です。特に重要なのが、陰圧操作!これにつきます。
抗がん剤だけでなく一般薬もそうですが、多くの注射薬はガラス製のバイアルに入っています。そこに空気を押し込んでしまうと容器内の圧力が高くなってしまい、針を抜いたときに針穴から液体が漏れてきます。頭ではわかっているのですが、私も新人の頃は面白いくらいに穴からぴゅーっと抗がん剤が漏れてきて相当焦りました。
既に液体の薬剤
マニュアルでは、「陰圧操作のため、少なめの空気をシリンジに入れて薬液を採取します」といった記載がありますが、少なめってどれぐらいと思いませんか(笑)私はバイアルの大きさで微調整しています。
①20mLのバイアルから15mL採取するとき
10mL以上の容量があるバイアルであればシリンジのメモリを2-3mLほど少なめの12-13mLに合わせてからバイアルへ針を刺します。
②5mLのバイアルから採取するとき
5mL程度の小さいバイアルであればシリンジのメモリを1mL少なめの4mLに合わせてからバイアルへ針を刺します。小さいバイアルでは空気を少なくしすぎると圧力に負けてしまって微調整が難しくなります。
③10mLと5mLのバイアルから14mL採取するとき
先に5mLのバイアルから全量採取し、次に10mLのバイアルから採取します。大きいバイアルの方が容量に余裕があるので最後の微調整がしやすいです。
指の力には個人差があるので、上記の数字を参照に自分にあった量を検討してみてください!
溶解作業が必要な薬剤
次に、粉の製品についてです。薬剤によって溶解に必要な液量が決まっているのでそれを理解しましょう。私の勤務先ではマニュアル化されているので皆覚えていますし、処方箋にも注意書きが印字されているので忘れてもそれを見れば大丈夫な仕組みになっています。
各薬剤の添付文書に溶解液量については記載があるので、ごく一例ですが紹介します。
商品名(一般名) | 溶解液量 |
ジェムザール(ゲムシタビン)200mg | 5mL以上 |
ジェムザール(ゲムシタビン)1000mg | 25mL以上 |
アブラキサン(パクリタキセル)100mg | 20mL |
アリムタ(ペメトレキセド)100mg | 4.2mL |
アリムタ(ペメトレキセド)500mg | 20mL |
ハーセプチン(トラスツズマブ)60mg | 3mL |
ハーセプチン(トラスツズマブ)150mg | 7.2mL |
①ジェムザール1400mg
上記の表の溶解液量を参照してください。今回は1000mg 1Vと200mg 2Vを吸いきれば良いので、私なら50mLのシリンジにベースとなる点滴から溶解液50mLを採取し、約30mLで1000mgのバイアルを溶解、約10mLずつで200mgのバイアルを溶解します。吸いきりなので厳密な溶解液量測定は不要ですし、少しでも多めにした方が溶けやすいです。
溶けやすい薬剤であれば溶解液注入後そのまま薬液採取に移れますが、ゲムシタビンは溶けにくいため一度針を抜きます。このときも陰圧操作は忘れずに!溶解液を入れたらシリンジ側に空気を引いて、バイアル内を陰圧にすること。また、溶解後もう一度針を刺して薬液採取するので、コアリングを防ぐためにゴム栓の真ん中から少し横に寄せて針をさすようにするのもポイント。また、同じところに刺すと、そこから空気がポコポコ入ってくるので泡立ちやすい薬剤であれば大変なことになります。
ゲムシタビンは泡立たない性質なのでとにかく振って溶かすか、溶けるまでの間他の調製を行います。溶けたら再度針を刺し、薬液を全量採取。ここでも陰圧操作です。
②ジェムザール1100mg
半端のある場合は溶解液の測定が必要になります。1000mgのバイアルは①のようにベースとなる点滴から溶解液30mLほど採取して溶かし、全量採取。
一方200mgは溶解液5mLで溶かし、2.5mL採取すれば100mgになることがわかりますか?5mL注入後陰圧操作で針を抜き、バイアルを振って溶かしたら、陰圧を意識しながら2mL程度の空気をシリンジに入れて2.5mL採取します。
③ハーセプチン300mg
ハーセプチン150mg 2Vですが、ジェムザールのように2V吸いきりとはなりません。というのも、ハーセプチン150 mgは7.2 mLの注射用水で溶解すると、濃度が21mg/mLとなると添付文書に記載があります。すなわち、300mg÷21mg/mLをすると、14.29mL採取となりますので注意が必要です。
このように、溶解液量が指定されている場合は注意が必要ですので、経験して学んでいくしかないですね。
泡立ちやすい薬剤
ガラス製のバイアル製剤から薬液採取する際は、圧力の関係でシリンジ内の空気をバイアル内に戻す操作が必要となりますが、このとき泡立ちやすい薬剤の場合は注意が必要です。針を液面より上に出して空気を戻さないと、ぶくぶくに泡立って必要量採取できなくなる可能性があります。
ちなみにリツキサンやアービタックスなどに代表される抗体製剤はポリソルベートという界面活性剤が添加剤として含まれており、非常に泡立ちやすいです。泡立ちやすい薬剤は経験を積んで体で覚えていきましょう。
個人的に新人の頃に苦戦したのはリツキサン注500 mg/50mLです。バイアル内に50mLなみなみと入ってますので、空気を戻すときに針を液面より上にうまく出すことができずぶくぶくに…これはバイアルを傾けて斜めにするしかないです。斜めにしすぎて針穴が広がりすぎないように気を付けてください。簡単なんですけど、慣れないと慌ててしまってできないんですよね~。
まとめ
抗がん剤調製の注意点はまだまだたくさんありますが、今回は基本編を記載してみました。
今となっては簡単なことですが、新人の頃は繁忙な業務の中先輩から満足に指導してもらえず泣きそうになりながら抗がん剤調製をしていました。コツをつかめば素早く正確な調製ができるようになるので、薬学生や新人薬剤師、看護師さんに参考にしていただければ幸いです!
今後は曝露対策のファシールや、インヒューザーポンプの調製方法、特殊な薬剤についてお話できれば良いなと考えております。
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